過去、人工知能(AI)とハーブ・アロマとの関わりについての業界動向を幾つか取り上げてきました。
【過去の関連記事:VRゴーグル(仮想空間)で、香りや風を感じる時代がもう来ていることがわかりました。】
【過去の関連記事:ゴールドコースト観光局などが推進するAI(人工知能)を活用したハーブティー「Kaori Tabi」について。】
私自身、人類が開発した最先端テクノロジーと、紀元前から人類が関わりを持ってきたハーブ・アロマとが今後どのような形で融合をしていくかという部分について大きな興味を持っています。
それらが融合していった結果、人びとの生活がどのように変わっていくのか、そして、そのことは人々にとってプラスの影響となるのか、マイナスの影響になるのか、などについて関心があります。
そんな中、人工知能がインドの伝統医療(アーユルヴェーダ)を大きく変えようとしているというニュースが昨日入ってきました。
その内容が衝撃度が高いものだったので取り上げたいと思います。
人工知能で進化する伝統医療・アーユルヴェーダ、インドで起こる医療革新・最新動向
欧米や日本で「医療」というと、自然科学をベースとした西洋近代医学による医療を指すことが多いといえるだろう。
しかし国や地域が異なれば、その意味も異なることがある。中国では中国伝統医療(TCM)、インドではアーユルヴェーダといった具合だ。中国伝統医療もアーユルヴェーダもそれぞれの国において数千年の歴史を持ち、現在も大学レベルで医師・研究者の育成が行われており、れっきとした「医療」として実践されている。インドでは政府機関であるAYUSH省がアーユルヴェーダを含む伝統医学を管轄している。
これまで欧米や日本では、自然科学をベースとする西洋医学を科学的、そうではない東洋医学を非科学的と見るような風潮が強かったが、以前中国伝統医療を事例にお伝えしたように、人工知能など先端テクノロジーの活用によって、西洋医学と東洋医学の垣根は小さくなり始めており、欧米の主力病院でも中国伝統医療やアーユルヴェーダを「統合医療」として取り入れる動きが加速している。
先端テクノロジーを活用し、「気」や「プラクリティ」など中国伝統医療やアーユルヴェーダが想定してきたコンセプトを「科学的」な言葉に置き換える試みが増えているためだ。
今回は、人工知能や遺伝学・分子学などの先端テクノロジーを活用し、伝統医療アーユルヴェーダを近代化するインド医療の最新動向をお伝えしたい。
ビッグデータが示すアーユルヴェーダの効果
そもそもアーユルヴェーダとはどのような医療なのか。
一般的に西洋医学がケガや病気を治すことにフォーカスした「治療医学」と呼ばれるのに対し、中国伝統医療やアーユルヴェーダは病気にならないような心身の状態を目指す「予防医学」と呼ばれている。何らかの症状が現れた場合、その症状を抑えるのではなく、根本からその要因を取り除こうとすることから「ホリスティック(全体的)」という言葉で説明されることも多い。
たとえば、頭痛の症状がある場合、一般的には鎮痛剤を服用し、その症状を抑えることが多い。この場合、一時的に楽にはなるものの、再発することが多く、根本的な治療になっているとはいえない。
一方、アーユルヴェーダでは、食事やライフスタイル、消化状況などから症状を診断。健康を維持する要素が食事やライフスタイルによって損なわれていると考え、根本から改善し、症状を取り除こうとする。
アーユルヴェーダでは、身体の生理機能は「Vata(風)」「Kapha(水)」「Pitta(火・熱)」の3つの要素が支配し、この3要素のバランスが崩れるとさまざまな症状として身体に現れると考えられている。また「Prakriti(プラクリティ=体質)」というコンセプトを重視し、患者それぞれの状態を考慮した対応を行う点も特徴的だ。現代風に言い換えると、「パーソナライズ」された医療ということになる。
頭痛の場合、不適切な食事やライフスタイルによって、Pitta(火・熱)の状態が悪化、それによって腸内の消化機能が低下し、「Ama」と呼ばれる消化不純物が生成される。このAmaがマインドチャンネルに蓄積することで頭痛が起こる。こうした考えのもと、頭痛という症状が出れば、食事・ライフスタイルの改善に加え、3要素のバランスを取り消化機能を回復させるハーブの処方などが実施されるのだ。
アーユルヴェーダで処方されるハーブアーユルヴェーダの効果に関して、このほどインドでビッグデータを使った大規模な調査が実施され、どのような患者がどのような症状でアーユルヴェーダ医療を活用し、どのような効果を得ているのかが明らかになった。この調査は、インド科学産業研究委員会(CSIR)や全インド医科大学、アーユルヴェーダ医療機関Jiva Ayurvedaなどが10万人以上の患者データを分析し、2018年10月に結果を発表したもの。
それによると、アーユルヴェーダ療法を試した慢性患者の76%が症状の一部が緩和または完治したというのだ。これらの患者は当初現代医学の医療を受けていたが、効果がなく、アーユルヴェーダに移行してきた人たち。
インドでは、伝統医療に従事する医師が70万人いるとされ、そのうち大半がアーユルヴェーダの医師だという。広く実施されている医療であるものの、診療・治療に関するデジタルデータはなく、これまでその効果を定量的に分析することは難しかった。同調査は、Jiva Ayurvedaが提供している遠隔アーユルヴェーダ医療の患者データを活用することで実現したものだ。
ビッグデータと人工知能解析がもたらすアーユルヴェーダの進化
このJiva Ayurvedaは同調査だけでなく、ビッグデータと人工知能を活用し、インドで初となるアーユルヴェーダ医療のプロトコル(標準化された手順)を開発したとして大きな注目を浴びる医療機関でもある。
パーソナライズされた医療であるアーユルヴェーダ。インド地元メディアHealthworldによると、Jiva Ayurvedaは過去6年に渡り100万人に上るデータを集め、人工知能によってパターンを抽出。そこから、アーユルヴェーダ医師の意思決定を支援するシステムを作り上げた。標準化によって、データの比較や定量分析などが可能となり、現代医学との共通言語になることが期待されている。
またアーユルヴェーダはゲノミクス(遺伝学)とも融合し、「Ayurgenomics」として発展する可能性も秘めている。
インドのゲノミクス研究の権威であるミタリ・ムケルジ氏は、ゲノミクスの文脈でパーソナライズド医療の研究を実施。その一環で、アーユルヴェーダのコンセプトをゲノミクスを活用し説明しようとしているのだ。これまでにアーユルヴェーダが想定する人それぞれの体質「プラクリティ」が遺伝学の観点からも説明できることを示唆した研究を発表している。
インド技術系大学IIITデリーのガネーシュ・バグラー教授らの研究チームは、食べ物・遺伝子・化学物質・病気の関係をディープラーニングで解析したデータデース「DietRx」を構築。人それぞれの特性を考慮したとき、食べ物・化学物質がどのように反応するのか、またどのような健康状態につながるのかなど、アーユルヴェーダ観点の研究を促進する土台として注目を集めている。
西洋医学と中国伝統医療に加え、アーユルヴェーダにも共通言語が生まれつつある状態といえるだろう。それぞれの医療分野を隔てる垣根がなくなったときどのようなディスラプションが起こるのか、その可能性に期待が寄せられる。
文:細谷元(Livit)
※AMPの2019年5月21日の記事(https://amp.review/2019/05/21/ayurvada-tech/)より抜粋
ビッグデータによって、インドの伝統医療であるアーユルヴェーダの効果・効能が科学的に明らかになってきており、且つ、アーユルヴェーダ医師を意思決定を支援するシステムが人工知能によってすでに構築されているという内容は驚きました。
この記事の中にもありますように、確かに、西洋医学は科学的、東洋医学は非科学的(伝統的な積み上げ)と見られていた部分が強かったと思いますが、
今後、東洋医学において用いられてきたコンセプトが科学的な言葉に置き換わっていくことで、西洋医学と東洋医学の敷居は低くなり、統合的な医療へとどんどん進化していきそうです。
今回のインドの動向はとても驚いたと同時に、人工知能(AI)が今後、グローバルな形で医療に対する考え方に対し革新をもたらしていく可能性を強く感じました。
【人工知能+伝統医療】のキーワードは今後もキャッチアップしていきたいと思います。