ハーブ・スパイスの効能の元となるフィトケミカル(植物の持つ化学成分)は、植物が紫外線や昆虫など、植物にとって有害なものから体を守るために作りだされたものということは、知識として持っています。
フィトケミカルの代表格としては「ポリフェノール類」があり、人体にとって抗酸化力(老化の原因の一つとなる体内の酸化を防ぐ力)があることは、ハーブ・スパイスに興味がない人でも知っていると思います。
※以下のWebサイトに、フィトケミカルの分類がありますが、整理をしやすいです。自分自身がフィトケミカルについて細かく調べたいときに役立ちそうな2つのサイトを貼ります。
ハーブ・スパイスの持つ効能というのは、実際に体内に何度も取り入れ、体感を通じてその理解を深めていくものだと思いますが、
最近、マルティン・オエゲルリ氏という科学者が高性能な電子顕微鏡で、ハーブにレンズを向け始め、ローズマリー・ラベンダー・セージ・バジル・サフランを撮影したという記事を見ました。掲載されていた写真そのものだけではなく、その解説が、視覚と効能が結びつく興味深い内容だった為、取り上げたいと思います。
電子顕微鏡で見るハーブ、驚きの世界 写真5点
2019.02.02
17世紀後半のアマチュア科学者アントニ・ファン・レーウェンフックは、身の周りの細部に取りつかれ、オランダ、デルフトの自宅であらゆる生物を観察した。彼の興味は、ミツバチの針やノミの口、果ては自分の精子にまで及び、黒コショウの実など、台所で使う香辛料も調べた。香辛料の味や香りの源を知りたかったのだ。レーウェンフックは、コショウの実を水につけて柔らかくし、顕微鏡で観察した。彼はコショウの実の表面には刺激のもととなる小さなトゲがあるのではないかと想像していたが、実際に見つけたのはひだのある小さな球だった。
しかし、それだけではなかった。コショウの実の横で、小さな物体が動いていた。史上初のバクテリアの観察例である。香辛料の刺激のもとを探して、気づかぬうちに未知の世界への扉を開いていたのだ。
ここに紹介する写真の撮影者で、科学者でもあるマルティン・オエゲルリ氏は、「現代のレーウェンフック」と呼んでいいだろう。
オエゲルリ氏は、レーウェンフックが使ったものよりはるかに高性能な顕微鏡で、同じような物を観察している。同氏はこれまで昆虫の卵や花粉、ダニ、虫の目の顕微鏡写真を撮ってきたが、最近、香辛料にレンズを向け始め、ローズマリーやラベンダー、セージ、バジル、サフランを撮影した。まるで「地球外生命」や「異世界」を見ているようだ、と彼は話す。
オエゲルリ氏は、微小な世界をただ撮るだけではなく、再現する。電子顕微鏡では色は見えないが、写真に色をつけ、あるものは強調し、あるものは目立たぬように調整する。本来の白黒画像では見落とす可能性のあるものを、赤や黄色にして目を引きつける。技術を駆使して、より美しく鮮やかに、さらにはより荘厳に仕上げるのだ。
しかし、こうした香辛料を観察する上でオエゲルリ氏が焦点を当てているのは、調味料としてではなく、普通の植物としての困難や競争、生殖の方法だ。
現在では、黒コショウの刺激はトゲのせいではなく、ピペリンと呼ばれる化学物質が原因とわかっている。ピペリンには殺虫効果があり、自然界では、コショウの木やその実を食べる昆虫や菌類に対する殺虫剤や虫除けになる。また、人間に食べられるのを防ぐ役割もある。口の中にある熱を感知する受容体に結合して「食べるな、火傷するぞ」と警告するのだ。しかし昔の人たちは、適切な量ならば、この熱をむしろ美味しく感じるということを発見した。
ローズマリーやラベンダー、セージ、バジルの葉の特徴は、ほぼすべて自衛本能に関係している。香辛料として利用される植物には、地中海原産のものが多い。厳しい日射しにさらされ、乾燥した気候の中で進化した植物にとって、葉や茎、種の1つ1つが苦労して手に入れたものであり、断固として守るべきものだ。
ラベンダーの白い毛は、葉を直射日光から守り、貴重な水が蒸発するのを防ぐ役割を果たす。ローズマリーやセージにも同じような毛がある。
だが、バジルは違う。セージやラベンダーと同様、シソ科に属すが、進化したのは乾燥地域ではない。料理に使われるバジルの大半の種は、アフリカやアジアの熱帯の湿潤な地域の原産だ。バジルにとって最大の脅威は、干ばつや暑さではなかった。その結果、バジルの葉は比較的柔らかく、ほとんど毛がない。
オエゲルリ氏は、自衛用の化学物質が詰まった小さな袋にも明るく着色した。バジルの写真では蛍光の緑色の「ボタン」のようであり、ラベンダーでは黄色の風船、セージでは緑がかった風船、ローズマリーでは黄色の風船と紫の毒キノコのように見える。
これらの部分には、ハーブの味や香りのもととなる化学物質が含まれている。つまり、ハーブの味は、もともとは自衛用の武器なのだ。ある植物が持つ化学物質(と味)の種類は、その進化の歴史によって変わる。ラベンダーの味や香りは、古代から長い時を経て現在のものとなった。ハーブがそれぞれ生き残るために獲得した化学物質が、それぞれの種の独自性となっている。つまり同じ科でも、種が違えば、味も異なってくるというわけだ。それぞれのハーブを調べれば、どんな相手から身を守ってきたか、敵の手がかりがわかる。
しかし、オエゲルリ氏が得た手がかりは、これだけではない。同氏が撮影した中で見た目が最も独特で引きつけられるのは、サフランだ。食べ物の調味料や着色料として使われるのは、サフランの葉でも花びらでもない。生殖器官、雌しべだ。
サフランは雌しべが異常に長い。そして、雌しべに含まれる化学物質のおかげで、食べ物はなぜか色鮮やかに染まり、風味が増す。
サフランはおそらくこの化学物質のおかげで、動物に食べられるのを防ぎ、赤い色で花粉を運ぶ昆虫を引き付けていたのだろう。わかっているのは、かつて授粉のためにサフランの祖先を訪れていただろう昆虫は、今はもうやってこないということだ。サフランの栽培化が進むうちに、雄花の生殖能力が失われてしまい、現在、サフランはクローンでの繁殖(球根の分球)に頼っている。昆虫が雌しべに飛んでくることはあるかもしれないが、今では、サフランの雌しべには生物学的な機能はなく、祖先が持っていた生殖能力の記念碑のようなものになっている。
オエゲルリ氏が写真にした植物は、私たちの台所でも確認できる。ローズマリーやセージ、ラベンダーの毛は肉眼で見えるし、舌で感じることもできる。葉をちぎると、“小さな風船”から放出された化学物質の香りを嗅ぐことができる。
台所の棚には、塩やクミン、ゴマなど、ほかにも見るべきものがたくさん並んでいる。世界はまだ、よくわからないものであふれている。レーウェンフックが始め、オエゲルリ氏が引き継いだ「見る」という仕事に終わりはない。
※NATIONAL GEOGRAPHICの2019年2月2日の記事より抜粋
実際に自分自身がハーブを育てる中で、ローズマリー・セージ・ラベンダーは乾燥に強いことは分かっていましたが、このような白い毛で覆われているのを見るとより納得します。
そして、それらのハーブを触ったときの触感と、写真から得られる情報が合致します。
また、冒頭で話したフィトケミカルが、小さな袋の中に詰まって存在しているというのは驚きでした。
視覚を通しても、ハーブ・スパイスの効能に対する理解を深めることができるのは大きな収穫です。
オエゲルリ氏の撮影する写真は今後も定期的にチェックしていきたいと思います。