最近はようやくコロナウィルスに対するワクチン接種率の国ごとの具体的な数値の報告が報告されるようになってきており、日に日に状況が前進していることを感じています。
米国に住んでいる感染症が専門の日本人医師が、一つの国の中で集団免疫をもち始めるのが国民全体の60%以上がワクチン接種をしたくらいからであり、そのレベルに達するのは今年の夏というコメントがありました。
目先では緊急事態宣言が延長されるか云々の話がありますが、全体感を把握しておくことで、心理的な部分でそんなに振り回されることがなくなると思います。
とは言いつつも、精一杯旅行が楽しめる日が戻ってくるのを一日でも早く来ることを強く願っています。その気持ちをちょっとでも紛らわすために、たまにバーチャル旅行関連の情報を見ることがあります。知識習得という観点では有益ですが、身体全体で楽しさ・喜びを感じることは難しいです。
でも、旅行好きにとっては、今の時期にバーチャル旅行関連の情報に触れて知識を入れておくことは、コロナ後に最大限旅行を楽しむ上で大切だとも思います。
今日は、ドイツにある”花の楽園”マイナウ島のバーチャル旅行の記事を紹介します。
おとぎの国の花の楽園 マイナウ島-Insel Mainau-
なかなか終わりの見えない自粛生活。気兼ねなく旅行や外出ができる日が待ち遠しいですね。今回は、海外旅行に行きたいけれども行けないという皆さんを、ドイツで暮らすガーデナー、エルフリーデ・フジ=ツェルナーさんが、空想旅行でドイツにお連れします。エルフリーデさんお気に入りの花の島、ボーデン湖に浮かぶマイナウ島をご案内します。
冬のドイツ
ドイツの1月はとても厳しい環境です。この記事を書いているいま、外にはとても美しい景色が広がっています。雲の隙間から青空が顔をのぞかせ、鳥がさえずり、見渡す限りが雪に覆われています。10cmほどの積雪が、太陽に照らされて輝いています。
このように文字に起こすと美しい景色なのですが、降り続く雪と風の中、20kmの田舎道を運転しなければならないような時には、景色を楽しむような余裕はありません。このような道は除雪が遅く、先日町に用事があって出かけた時には、心臓をバクバクさせながら、雪の降り積もった坂道や急カーブなどを進まなければなりませんでした。時には、車が道を外れて道端で凍えるのではないか、なんて考えが頭をよぎることも。帰り道では除雪車を見かけましたが、道の半分は雪で覆われているのに、残りの半分は除雪されて運転しやすくなっていました。その後幸い事故もなく、無事に家に帰りつくことができました。
そんな例年通りの冬の厳しさに加え、今年はコロナウイルスの感染状況も深刻です。ドイツでは、1月11日から、全面的なロックダウンが再び始まりました。日常生活を行うことが次第に難しくなっていて、バイエルンでは、普通の布マスクを着用しただけでは、もうスーパーなどに買い物に行くことはできません。それぞれの州により規制は異なりますが、1月18日から、買い物などの際にはFFP2マスクという医療用マスクを着用することが義務付けられています。
さて、こんなことばかり考えていると気持ちが暗くなってしまうので、こんな状況でも楽しむために、一緒に旅行に行きましょう! とはいっても、本当に旅する訳にはいきません。この記事では、イチオシの美しい風景や、花や自然、そして喜びに満ちたドイツのエリアを紹介しながら、想像の旅を楽しんでもらいたいと思います。
コロナ禍を乗り切る空想旅行
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今回は、バーデン・ヴュルテンベルク州のボーデン湖にあるマイナウ島(Insel Mainau)へと皆さんをお連れしましょう。ボーデン湖はシュヴァーベン海とも呼ばれていますが、これはまるで海のように大きい湖だから。この湖はドイツの南西の端に位置し、ドイツ、スイス、オーストリアの3国の国境に位置しています。南北の長さはおよそ63km。湖全体をぐるりと回る、約260kmのサイクリングロードも人気です。セーリングやウィンドサーフィン、海水浴を楽しむ場所としてもよく知られています。近隣の国では、人気のリゾートスポットなのです。
私も旅行で何度もマイナウ島を訪れたことがありますが、同じドイツ国内とはいえ、私が暮らすバイエルンとは雰囲気が大きく異なる地域です。
有名なライヒェナウ島
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ボーデン湖には、マイナウ島を含めていくつかの島々が浮かんでます。中でも一番大きい島は、1,300年以上前につくられた修道院で有名な、ライヒェナウ島(Insel Reichenau)。この修道院の近くには小さなハーブガーデンがあり、9世紀には修道院長のワラフリッド・ストラボ(Walahfried Strabo)が、『HORTULUS』という、植物学的かつ教育的な、非常に初期のガーデニングに関する詩集を残しています。この詩集の中で、彼はセージやヘンルーダ(コモンルー)、ニガヨモギ、キャットミント、ハッカなどなど、多くの植物について言及しています。当時のガーデニング模様を記した貴重な文献資料です。
このハーブガーデンは、1991年に復元されました。気軽に見て回ることができますが、その背後には素晴らしい歴史を持つガーデンなのです。
現在でも、ライヒェナウ島にはたくさんの野菜やハーブの畑があります。春から夏にかけて、島の空気は爽やかなハーブの香りを含みます。この島にはいくつかの通称がありますが、その一つが野菜の島という意味のもの。あまり華麗な名前ではありませんが、島には野菜農家のハウスも多く、島の様子をよく表しています。野菜畑と並んで多いのが、赤や白のブドウが育つブドウ畑。秋になると、美しい紅葉を見せてくれます。
ライヒェナウ島に広がるブドウ畑。© StockFood / TH Foto
島にある高さ45mの展望台からの眺めも壮観です。この地の豊かな歴史を示す3つの教会と博物館が一望できます。ライヒェナウ島の人口はわずか3,300人ほどですが、休暇を過ごす間のレンタルアパートは充実していて選択肢が豊富。どのアパートも清潔で居心地がよく、島民の方々と交流することもできます。
さて、先に書いたように野菜の島とも呼ばれるライヒェナウ島には、じつはもう一つ別の名前があります。それがMONASTERY ISLAND(修道院の島)というもので、ユネスコ世界遺産のリストにもこちらの名前が登録されています。
1つの島に対して3つの名前。ちょっと混乱してしまいますね。
花の島 マイナウ島
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世界遺産にまで登録されているライヒェナウ島ですが、じつは、私がボーデン湖で一番好きな島は別にあります。それが、花の島とも呼ばれるマイナウ島です。マイナウ島を訪れるときには、基本的に船でメーアスブルクの村から出発します。
この花の楽園をつくりあげたのは、2004年に亡くなった、レナート・ベルナドッテ伯爵。彼の死後は2008年に亡くなった妻のソーニャ・ベルナドッテ伯爵夫人がその仕事を引き継ぎ、現在は、娘のベティーナ・ベルナドッテ伯爵夫人と、その弟のビョルン・ベルナドッテ伯爵という若い世代の下で、多くの新しいアイデアやエリアが加わり、さらなる発展を続けています。
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マイナウ島の大きさは約45ヘクタールで、島からは湖とスイスの山々を望むことができます。 島の周りには舗装された広々とした小道が通り、さまざまなテーマのガーデンや温室、レストラン、観光スポットへと続いています。 ベビーカーや車椅子の人でも、ほとんどの場所に簡単にアクセスできるようになっているので、旅行するにはぴったりの場所です。
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花の島という名にふさわしく、マイナウ島は花や緑にあふれています。中でも春は、溢れんばかりの春咲きの球根花が、訪れる人々を迎えてくれる華やかな季節。船から下りると、大通りが球根花の咲くエリアへと続いています。3月初めの早春にはクロッカスから開花が始まり、続いてスイセン、チューリップ、ビオラが、春の通りというテーマのガーデンで咲き誇ります。この光景を見ると、オランダのキューケンホフ公園を少し思い出します。マイナウ島にはキューケンホフのようなチューリップ畑はありませんが、広い範囲にたくさんの球根が植わり、芝生と木々の緑、湖の青を背景にしたステージで、素晴らしいショーを見せてくれるのです。
色鮮やかなチューリップの開花は、春のガーデンの醍醐味。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
それでは、マイナウ島の人気エリアをご紹介していきましょう。
カラフルな花のオブジェも、マイナウ島の名物です。Sina Ettmer Photography/Shutterstock.com
マイナウ島の人気エリア
バタフライハウス(蝶園)
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この島のバタフライハウスは、ドイツの中でも2番目に大きいものです。季節にもよりますが、最大で約120種1,000頭のチョウが、世界中から集めた熱帯植物の間を舞い飛びます。この光景は、いつ見てもくもりのない喜びと限りない自由を感じさせてくれます。湿度は何と90%にも達し、気温は年間を通しておよそ25~30℃に保たれています。冬の青とは対照的な、素晴らしい南国の楽園なのです。
子どもの広場
島を訪れる子どもたちには、水をテーマにした大きな遊び場がおすすめ。親にとっても、ゆっくり座って子どもが遊ぶ姿を見守ることができるのが嬉しい場所です。木陰でピクニックもいいですね。隣にはポニーやアルパカ、羊、ロバ、牛などがいる小さな牧場もあります。餌やりやふれあいも体験できますよ。
クライミングパーク
マイナウ島では、アドベンチャー体験もできます。クライミングパークに行ってみましょう。木々の間にはたくさんのアトラクションがあり、高いところやスピードを楽しむことができます。見ているだけでも楽しいですよ。
以前、このクライミングパークのアスレチックに挑戦したのですが、木登りやバランスといった普段しない運動をしたことで筋肉痛になり、回復するのに丸々3日かかりました。私のように日頃から運動をしていない人が挑戦する場合は、十分気をつけてくださいね。
樹木園
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樹木園には、樹齢100~150年ほどの雄大な木々が植わっています。ほんの一例をあげれば、セコイアデンドロンやユリノキ、ヒマラヤスギなど、主にエキゾチックな木々が世界中から集められています。近くにはメタセコイア並木もありますが、これらの巨木たちの間に立つと、自分がいかにちっぽけな存在か痛感させられます。
巨木の代表格セコイアデンドロンは、樹高80m以上に達します。現存する樹木で世界最大とされる「シャーマン将軍の木」も、セコイアデンドロン。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
バロック様式の宮殿
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島の中心部にあるこの美しい宮殿は、1739~1746年にかけて、ドイツ騎士団の城として建設されました。均整の取れた左右対称の建物で、形はアルファベットのUに似ています。この宮殿は島の中心部にあり、現在もベルナドッテ伯爵がここで暮らしていますが、一部は一般に公開されています。部屋やホールの一部は、展覧会や音楽会、企業の会議、結婚式などのために借りることもできますが、どんなイベントをやるにしても、素晴らしいロケーションとなることでしょうね。教会もあり、こちらも結婚式場としても人気の高いスポットです。
パームハウス(ガラス温室)
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この宮殿と教会に隣接して、パームハウスがあります。外見は、まるでガラスでできた大きな3つの波のよう。高さは最大で17mほどあり、一番高いヤシの木も十分に収まる高さがあります。温室内には20種以上のヤシが育ち、冬季になると柑橘類も冬越しのためにやってきます。5月には大きなランの展示イベントもあり、ファレノプシス(コチョウラン)やバンダ、カトレアなどのさまざまな品種のランを見ることができます。
イタリアンローズガーデン
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パームハウスの前には、幾何学的にデザインされたローズガーデンがあります。
一番花のハイシーズンは6月半ば頃、そして二番花は8月に見頃を迎えます。トレリスにはつるバラが絡みつき、ブッシュローズやスタンダード仕立てのバラなどが、数えきれないほどの色形で花開きます。ガーデンには1,000品種以上のバラがあり、毎年少しずつ新品種が加わっています。毎年6月には、訪れた人による人気投票で、マイナウ島のバラの女王を決めるコンテストも行われています。
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バラを楽しむ際には、香りも忘れてはいけません。ぜひ顔を近づけて、香りもかいでみてください。私はどの花でもついつい香りを確かめてしまうので、一列の花壇を見終えるだけでも、とても時間がかかってしまいます。
イタリア風 花と水のカスケード
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このカスケード(階段滝)は、次にご紹介する地中海テラスと、その下に広がる湖のエリアをつなぐもの。イタリアのトスカーナを彷彿とさせる背の高いイトスギとともに、色とりどりの一年草や地中海原産の植物に彩られた美しい水路を、楽し気に水が流れ落ちています。季節によってさまざまな表情を見せ、マイナウ島の中でもよく知られたスポットです。
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地中海テラス
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イタリアの風を感じられる地中海テラスは、この花の島の中でも、私が特に好きなスポットの一つです。
ドイツ人の多くは、イタリアや地中海、そしてかの地の緑豊かな植生や短く暖かな冬への憧れを持っています。こうしたイタリア好きのドイツ人は、自分の持つガーデンのどこかにイタリア風のポイントを入れることがよくあります。このテラスは、その素晴らしい成功例の一つでしょう。ノウゼンカズラやブーゲンビリア、パッションフラワー、アガベ、ヤシといった熱帯~亜熱帯地域の植物に取り囲まれるようにして、中央には噴水があります。これらの植物は寒さに弱いので、冬は温室に運び込まなくてはなりませんが、それでもとても美しい景色です。
また、このテラスからの眺望は素晴らしく、ボーデン湖のパノラマビューを堪能することができます。
草本園
Mario Krpan/Shutterstock.com Mario Krpan/Shutterstock.com マイナウ島の草本園を訪れると、かつてガーデニングを学んだ場所のことをよく思い出します。ルドベキアやエキナセア、デルフィニウム、エキノプス、オリエンタルポピー、ヘメロカリス、ピオニーなどなど、数えきれないほどの宿根草が海のように広がります。ここでは、700種以上、20,000を超える植物が育ち、サイズや形、カラーリーフなどが多様に植えられているので、自宅の庭の宿根草の組み合わせ方を学ぶにもうってつけの場所です。
ピンクのエキナセアに青のエキノプスを組み合わせた植栽例。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
アジサイの小径
フェリーで島を訪れる人々が到着する船着き場のそばにあるアジサイの小径。レストランやおいしいソーセージを売る屋台などの前を通り過ぎ、「Comturey」というレストランの美しいルーフガーデンを通って、花時計まで続いています。
ちなみに、花壇と時計を組み合わせたものではなく、花そのものの開花によって時間を計るという花時計のアイデアは、世界的に有名なスウェーデンの植物学者であるカール・フォン・リンネが、1745年に考えたものだそう。花によって開花の時間が異なることに気づいたリンネは、丸い花壇を作って12の時間帯に分け、その時間帯に開く花を対応する場所に植えて時を計ることを考えました。条件次第で開花にバラツキが出るため、時計としては普及しませんでしたが、いまでも一部のガーデンや植物園などで見ることができます。
ダリアガーデン
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8月末から10月半ばにかけて、最盛期には10,000本以上が咲くダリアは、秋のマイナウ島の最大の魅力の一つです。草丈40cmほどのコンパクトなものから2mにもなるものまであり、花色や花姿も豊富です。バラと同様に、最も人気の高いダリアの花を選ぶ投票も毎年行われています。
種類豊富で華やかなダリアは、秋のガーデンの主役花の一つ。Friedrich Strauss Gartenbildagentur / Strauss, Friedrich
旅する日を夢見て
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マイナウ島では、年間を通してたくさんのフェスティバルやイベントも行われ、毎年およそ120万人もの観光客が、ボーデン湖に浮かぶこの花の楽園を訪れます。ここでご紹介した以外にも、ボーデン湖周辺には魅力的な場所がたくさんあるので、ゆっくり時間を取って観光するのがおすすめ。マイナウ島は見どころが多いので、丸一日かけてさまざまなエリアを探検してみてはいかがでしょうか? 慌ただしく回るのではなく、腰を落ち着けて景色を眺めたり、レストンや屋台の美味しい食事を楽しんだり。この素晴らしいロケーションと美しい景色を、じっくり味わってほしいと思います。
残念ながら、現在は島を訪れるにはさまざまな規制がありますが、近い将来、私も再びマイナウ島を訪れて、今まで以上にその素晴らしさを満喫したいと思っています。自然やその美しさ、そしていずれ戻ってくる自由に旅する喜びは、コロナ禍を経て、より一層強く感じられることでしょう。
ボーデン湖とマイナウ島の地で、皆さんを歓迎できる日が来ることを願っています。それまでは、「いつか行きたい」地を空想旅行で楽しんでみませんか?
Credit
ストーリー&写真(記載外)/Elfriede Fuji-Zellner
ガーデナー。南ドイツ、バイエルン出身。幼い頃から豊かな自然や動物に囲まれて育つ。プロのガーデナーを志してドイツで“Technician in Horticulture(園芸技術者)”の学位を取得。ベルギー、スイス、アメリカ、日本など、各国で経験を積む。日本原産の植物や日本庭園の魅力に惹かれて20年以上前に日本に移り住み、現在は神奈川県にて暮らしている。ガーデニングや植物、自然を通じたコミュニケーションが大好きで、子供向けにガーデニングワークショップやスクールガーデンサークルなどで活動中。Photo/Friedrich Strauss Gartenbildagentur/Stockfood
取材/3and garden
※Garden Storyの2021年1月31日の記事(https://gardenstory.jp/stories/52753)より抜粋
テンションがあがる記事です。記事中で紹介されているマイナウ島とライヒェナウ島の位置は以下です。
ハーブ好きにとっては、”修道院の島”と呼ばれる【ライヒェナウ島】も絶対に外せないですね。
ドイツでのハーブ巡りを実現する日に向け、ヒルデガルト(ドイツ薬草学の祖)のことは当然ですが、地理的なことも勉強していきたいと思います。