昨日の記事にも関連しますが、人間の「脳波」と「心身の状態」の相関についてのデータが揃ってくると、香りを嗅いだときの脳波を見ることで、ある程度、心身にどのような影響を与える香りなのかが見えてくるのは個人的に面白いです。
【昨日の記事:脳波の感性評価にもとづく「マスク専用のアロマスプレー」が気になります。】
ハーブの薬効に関しては、過去数千年にわたって人々が積み上げてきた知恵が科学的に意味のあるものというエビデンスが近年集まっていますが、ハーブの【香り】の心身に対する影響の研究というのは最近になって特に加速しているという印象を受けます。
最近の香りに関する研究でいうと、”ベルガモット”の研究結果が記憶に新しいです。
【過去の参考記事:「脳のストレス」と「免疫力」の関係。ベルガモットの免疫力アップ効果の相対的な持続性の高さに驚きました。】
今日ご紹介したいニュースは、【集中力&リラックスを同時に得られる香り】についての実験なのですが、在宅ワークの効率UPに役立つ情報なので以下に取り上げます。
在宅ワークの効率UP!集中力&リラックスを同時に得られる香りとは?
なぜ香りが心身のバランスをコントロールするのか?
画像はイメージです。オフィスワークでは、自分のデスクでアロマを放つと、広範囲に漂ってしまうので御法度だった。
だから今、在宅ワークで気兼ねなく香りを活用しようではないか! 香りは、心身のバランスをコントロールする作用があるので、仕事の効率もアップするはず。
ではまず、なぜ香りが心や体にも効くのかを解説していこう。
なつかしい香りを嗅いだとき、その当時の記憶が呼び起こされて、胸がキュンとしたり、幸福感に包まれたりした体験、あるのではないかな?
人が香りを感じる仕組みは、香りの成分が呼吸と共に鼻に入り、その香り成分を情報としてキャッチ。
その情報が、大脳皮質の大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)に伝えられ“香り”として認識される。
この大脳辺縁系は、感情や記憶、そして自律神経に関与している部位。だから、何かの香りを感じたとき、その香りに関わった思い出や、その時の気持ちも呼び起こされ、幸福感や安心感を得られるのだ。
結果として、香りを感じることは、脳への働きかけとなり、自律神経を整えるなど心身のバランスをコントロールすることにつながる。
そこで、使用する際にオススメしたいのは精油(エッセンシャルオイル)だ。
精油とは、花や葉、果皮、根、種子などから抽出した天然素材で、有効成分を高濃度に含有した揮発性の芳香物質である。
基本的に好みの香りでいいが、集中力を出すタイプと、リラックスさせるタイプに分かれているものがほとんどだろう。
在宅ワークでは集中力を高めたいが、TVやネットから不安な情報が入ってくる昨今、緊張感をほぐすリラックス効果も同時に得たいものである。
この相反する効果を得られる精油、じつは存在すると考えられる。
リラックス時に出るα波を可視化!
筆者が、大学医学部 精神神経科学教室の教授と共同で行った、香りによる脳波実験の症例を見ていただこう。
被験者は筆者を含め2名。上段の『Fさん』が筆者の脳波である。
実験に使用したのは、画像左から、ホホバオイル、オレンジの精油、イランイランの精油、ローズの精油、ラベンダーの精油、消臭剤(ラベンダーの香り)。
ホホバオイルは、精製して無臭なものを使用。香りのある・なしでの変化を観察するために使用した。
このデータは、リラックスしたときに出る脳波“α波”を示している。
Fさんの左後頭部α波は、ラベンダーがダントツ。次点でオレンジとローズ。Iさんは、ローズが突出していて、次点がラベンダー。
Fさんの右後頭部α波は、なぜか無臭のホホバオイルがダントツ。次点が僅差でローズ。Iさんもホホバオイルとローズが同点で高かった。
別な意味で注目してもらいたいのが、ラベンダーの香りがする消臭剤。Fさん、Iさん共にα波は低く出ていた。
脳の活性化を表すP300って何だ!?
次は脳の活性化を示したP300のデータを見ていただこう。
丸い円が脳の全体図で、赤い部分が多いほど脳が積極的に活動していることになる。
P300とは、脳波をコンピュータで分析することにより得られる脳波成分で、脳が積極的に活動しているときに出現。
その名称は、与えられた情報を脳が認知したことにより表れる成分が、情報を与えられてから300ミリ秒(0.3秒)経てから出現することに由来する。Pはポジティブ=陽性の脳電位のこと。
P300が早く表れ、波形が大きいほど脳が活性化していることを示す。若い人は早いが、17~18歳くらいからだんだん遅くなるという。
1年間で1.2ミリ秒遅くなる。70歳くらいになると、60ミリ秒だから、0.06秒も遅くなってしまうのだ。
FさんのP300は、ラベンダー香の消臭剤がダントツに活性化していて、次点が無臭のホホバオイル、イランイラン、ローズで、同じくらいの活性度。
Iさんも、消臭剤とホホバオイルに強く活性化し、次点でイランイランとローズという結果に。
被験者がたった2名なので断言はできないが、両者共に、リラックスと集中力が増したのはローズの精油であった。
ローズの精油を使えば、在宅ワーク中に集中力とリラックスを同時に得られる?!
この結果を鑑みると、ローズの精油を使えば、在宅ワーク中に集中力とリラックスを同時に得られると考えられる。
ちなみに、ラベンダー香の消臭剤は、α波が低く、P300が高いという結果に。スーパー等で販売されている廉価なラベンダー香の製品は、人工香料なので、天然ラベンダーとは間逆の結果になったのだろう。
自宅で精油を楽しむには、アロマポットやアロマディフューザーで香らせるのが一般的。ない場合は、ティッシュやコットンに数滴垂らして、デスクの上に置いておくといいだろう。
ただ、ローズの精油は、他の精油に比べて高価なのである。上質なものだと1本6千円以上はするだろ。
精油1㎏を得るために、ラベンダーなら花穂を100~200kg。それに比べて、ローズは3~5トンも必要とされるから、お高いのも無理はない……。
しかし現在、飲み会など社交的な行事もないことだし、この際、奮発してみてはいかがだろう?
薔薇の天然香に包まれて、在宅ワークの効率をアゲていこうではないか!
取材・文/ウェルネス・ジャーナリスト 藤田麻弥
雑誌やWebにて美容や健康に関する記事を執筆。美容&医療セミナーの企画・コーディネート、化粧品のマーケティングや開発のアドバイス、広告のコピーも手がける。エビデンス(科学的根拠)のある情報を伝えるべく、医学や美容の学会を頻繁に聴講。著書に『すぐわかる! 今日からできる! 美肌スキンケア』(学研プラス)がある。
※Men’s Beautyの2020年4月15日の記事(https://beauty-men.jp/99324)より抜粋
興味深い内容なのですが、被験対象が非常に少ないので、取り扱いには気をつける必要があると思います。
ただ、【ローズは「リラックス効果」と「集中力アップ効果」を同時に得られる】という仮説を持って、自分自身で実際に検証していくのはとても意義のあることだと思いました。
在宅ワークが確実に増えていくこの社会情勢において、ローズの香りをデスクの上で嗅ぎながら仕事をしていく中で様々な発見があるかもしれません。