ちょうど一年前、ブルガリアの高山ハーブ「ムルサルスキー」の存在をはじめて知って以来、風邪、インフルエンザ予防用として自宅の部屋に常備しています。
【過去の関連記事①:ブルガリアの高山ハーブ『ムルサルスキー』が届いたので早速ハーブティーを飲んでみました。】
【過去の参考記事②:ブルガリアの高山地帯に生育する「ムルサルスキー」というハーブが凄いという話を聞いたので、概要を調べてみました。】
その後、”ブルガリアの国民的調味料”である「シャレナソル」の存在を知りました。シャレナソルは、パプリカ、ターメリック、サマーセーボリー、フェヌグリークに塩を混ぜ合わせたものです。
【過去の参考記事:ブルガリアの「シャレナソル(sharena sol)」という国民的万能調味料について】
「シャレナソル」のことを知った時点で、ブルガリアには奥深いハーブの文化が根付いていそうだと感じるようになりました。
さらに、ブルガリアに隣接するギリシャ・トルコ周辺に分布する「シデリティス」というハーブ(形状が、ムルサルスキーに似ている)のお茶を飲んだときに、東ヨーロッパ原産のハーブにも大きな興味を抱くようになりました。
【過去の参考記事:ギリシャ原産の高原ハーブ『アダチャイ(別名:シデリティス)』にはじめて出会いました。】
今日は、ブルガリアのバルカン山脈だけに育つ「サマルダラ」というハーブを活用した、ブルガリアの食卓文化にについてご紹介します。
ハーブ大国ブルガリアで教わった、料理しないでおいしい料理を作るハーブソルトの知恵
ブルガリアは、EUトップのハーブ生産国だ。ブルガリアの人々は、薬用にもお茶にも、そして料理にもハーブを使う知恵をたくさん持っている。市場に行くと、フレッシュもドライも各種並び、普段の食卓にハーブがよく使われていることが窺われる。
バラで有名なカザンラクに住むネリさんは、お庭でハーブを育てる料理好き。料理をしているとひょろっと庭に出ていって、今使うハーブをとってくる。ハーブというとおもてなし料理のようなハードルの高さを感じていたが、彼女に教えてもらった、ハーブソルトを使った「料理しない料理」は目から鱗だった。
目にも鮮やかなハーブソルト二種
教わったハーブは緑の「サマルダラ」と赤の「シャレナソル」。どちらも使い方はにているのだが、この記事では緑が美しいサマルダラについて紹介したい。
サマルダラは、バルカン山脈にだけ育つこの地域のハーブで、にんにくのような香りとはちみつのようなやわらかさを併せ持つことから英語では「ハニーガーリック」と呼ばれる。収穫した葉っぱをすりつぶして塩を混ぜて乾燥させたものを粉にしていているため全体に塩味があり、調理中よりも食卓でかけて使う。日本のものだと、イメージは「ゆかり」が近い。風味もさることながら、鮮やかな緑色もユニークだ。
パンにかけるだけで幾通りもの立派な料理になる
このサマルダラのすごいところは、「ぱらっとかけるだけで立派な料理になる」こと。パンや生野菜やチーズにかけるだけで全然違う味わいに変身する。
一番シンプルにして定番なのは、パンにバターを塗って振りかけるもの。パンも焼かず、具材らしい具材もなく、でもバターの脂肪分ときりっとしたガーリック香がチーズサラダのような風味を作り出し、立派なオープンサンドが出来上がる。忙しい日の朝食もゆたかになる。
そこにきゅうりやトマトをのせると、チーズサラダに野菜が加わり、さっぱりリッチな夏のサラダを食べているよう。他の食材ものせてみたくなる。朝食並の手間なのに、もうおもてなし料理にも使えそう。
バターが合うなら他の乳製品も合う。バターの代わりにクリームチーズを塗ったり、チーズと一緒にトーストすると、また別の味わいで朝食のアレンジは自由自在だ。
パン以外にも「かけるだけ」で大活躍
ゆで卵に振りかけるのも魔法のような瞬間料理だ。卵の硫黄臭にガーリックのような風味が抜群に合い、普通の塩をかけた卵は「卵を食べている」気がするのにハーブソルトをかけた卵は「卵”料理”を食べている」満足感がある。
トマトピューレに入れると立派なスープになる。よく熟れたトマトをフードプロセッサーにかけ、サマルダラをひとつまみかけたら冷製トマトスープの完成。トマトの旨味がガーリック風味と塩気できゅっと引き締まり、立派なスープになる。色々な調味料を使ったりしてはいないのにレストランのように洗練された冷製スープになった。
ネリさんがこだわる”料理をしない料理”
「手のかかる料理はしなくなってしまう。若い人にも料理をしてほしいから、私は”cooking without cooking”を伝えているの」。ネリさんの教えてくれたものは、どれも最小限の手間にして作り出す楽しみとおいしさがある。あれもこれもとがんばらなくても、これで料理なんだと気が楽になる。
彼女はフードブロガーとしての顔も持ち、シンプルな家庭料理レシピを紹介している。
ハーブ大国ブルガリアの家庭で教わったのは、ハーブを使った「おもてなし料理のテクニック」ではなく、ハーブソルトを使った「料理をしないで料理を楽しむ日常の知恵」だった。おまけ:日本でやるなら”オレガノと塩”
サマルダラは日本にはないけれど、家にある材料でまねできないか色々試してみた。
ガーリックパウダーは強すぎてだめだった。クレイジーソルトなどの既製品は、オニオンやガーリックが立ってこの用途には向かない。色々試してみた結果、オレガノと塩という組み合わせに行き着いた。実はこれはネリさんもする組み合わせで、チーズのサラダにも使っていた。
サマルダラの風味の完全再現ではないけれど、パンにもバターにもトマトにも、同じように使えて、かけるだけで立派な料理を作りだす。卓上にオレガノソルト、ぜひいろいろ試してみてください^^
普段、なかなか料理の時間を充分に取れない人にとっては、ここで紹介されている知恵はとても有効だと思いました。
そして、何よりも気になるのは、ブルガリアのバルカン山脈にしか分布していないという「サマルダラ」というハーブです。
「ハニーガーリック」とも呼ばれるというこのハーブの味が、気になってしょうがありません。
ネット上で、「サマルダラ」と検索しても、ご紹介した、世界の台所探検家の岡根谷実里氏のブログしかヒットせず、日本では全然知られていないハーブということが推測できます。