今から約1年半前に、漢方スクールを運営する「薬日本堂」(東京・品川)にて、「はじめての漢方入門」という1Dayセミナーを受けてきた時のことをレポートしました。
【過去記事:薬日本堂の「はじめての漢方入門」セミナーで、漢方の基本を学んできました。漢方の理論のベースは「陰陽五行説」にあり。】(2019年9月2日)
タイトルにもありますが、このセミナーの内容の柱は、漢方の理論のベースとなる「陰陽五行説」でした。陰陽五行説について、セミナー時に私が簡潔にメモった内容を以下に貼ります。
月と太陽、水と火などの自然現象を二つの対立関係として捉えた「陰陽」が生じ、 五遊星(木星・土星など)の発見と、古代人の生活必須要素である木・火・土・金・水が一緒になり「五行説」が生まれ、その2つの概念が融合し、「陰陽五行説」が成立し、天文歴、政治、道徳、その他全ての物事の基礎理論に用いられてきたとのこと。
人間は自然の一部なので、上記の法則が当てはめられるということで、この「陰陽五行説」が、養生と医療の分野に採用されるようになり、人と自然との関係や、人体内部の臓腑の相互関係を明らかにし、病理、診断、予防、治療など、漢方医学の理論の基礎がつくられたとのこと。
この内容を見ると、なんとなく、陰陽五行説の偉大さ・壮大さを認識できると思います。
今日は、陰陽五行説を構成するパーツの一つである「五行説」について分かりやすく解説された記事をご紹介したいと思います。
季節で不調となる臓器が変わる! 漢方・薬膳の基本の一つ「五行説」とは?
東洋医学でいう「五臓」とは、からだを構成する「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」の五つ。これらは解剖学的には現代医学の内臓とほぼ同じものですが、その考え方や機能は異なる部分があります。五臓には、それぞれが属する「五季」があり、季節とも深い関わりがあります。週刊朝日ムック「未病から治す本格漢方2021」では、漢方や薬膳を考える上で基本の一つとなる「五行説」について解説しています。
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中医学において、自然界のさまざまな物質や人体の諸器官を、日常生活や生産活動の基本物質である「木(もく)・火(か)・土(ど)・金(ごん)・水(すい)」の五つの元素に結び付けて分類したものを「五行説」といいます。これらは漢方や薬膳を考える上で、基本の一つとなる理論です。
「木・火・土・金・水」の特性についてはそれぞれ、(1)樹木が成長することで伸展・上昇などの意味を表す「木」、(2)火が燃えることで、温熱上昇などの意味を表す「火」、(3) 播種(はしゅ)・収穫など農作物と関連して万物を生かす「土」、(4)変革を表し、清潔・下ろす・収れんの意味をもつ「金」、(5)水のように下ろしたり、うるおしたりといった意味を表す「水」となっています。
五つの元素は、互いに五行の一つが相手に対して促進・助長・養成などの作用をする「相生(そうせい)」と、五行の一つが相手の成長と機能に対して抑制・制約などの作用をする「相克(そうこく)」の関係をもっています。
■五行と人体の関係を表した五行色体表
中医学では、診断や治療などの理論的な根拠として五行の相対関係を用います。そのため、五行は人体の生理や病気、食材、環境など、さまざまな内容で分類されています。それを表にしたものが「五行色体表」です。
五行色体表を見ていくと、まず、「五行と関連する身体の部位」として、からだを構成する「五臓」をはじめ、五臓に対応する腑である「五腑(ごふ)」、五臓が支配する感覚器である「五官(ごかん)」、五臓が司る器官の「五主(ごしゅ)」などに細かく分類されています。
さらに、「五臓に変調を招くもの」として、五臓が属する季節の「五季(ごき)」、五臓が嫌う外気の「五悪(ごあく)」、五臓を病みやすくする動作の「五労(ごろう)」があります。また、「五臓が変調した際の症状」として、五臓が変調した際の皮膚の色を表す「五色(ごしょく)」、感情を表す「五志(ごし)」、変調時に好む味の「五味(ごみ)」などもあります。なお、五臓を養う食材もあり、果実なら「五果(ごか)」、肉類なら「五畜(ごちく)」といった属性もあります。
■季節ごとの変調や食材を推察する手がかりに
例えば、五行色体表で五行の「木」を見ると、対応する五臓は「肝」、五腑は「胆」、五官は「目」、五主は「筋」、五季は「春」です。つまり、春には「肝」の働きが悪くなりやすく、胆や目の不調、筋の異変が起こりやすくなります。また、五悪が「風」、五労が「行(歩きすぎる)」であるため、春にはできるだけ風に当たることを避け、歩きすぎないほうがいいと考えられます。五味は「酸」なので、春には酸味の食材をほどほどにとることが、肝の働きを助けると考えます。
このように、五行の属するグループには何らかの関連性があると考えられ、みられる症状は五臓の変調や対応する食材を推察するのに役立つでしょう。
東洋医学の「五臓五腑」は、解剖学的には現代医学の内臓とほぼ同じものですが、その考え方や機能は異なる部分があります。
「五臓」とは、からだを構成する「肝(かん)」「心(しん)」「脾(ひ)」「肺(はい)」「腎(じん)」の五つからなります。その働きは、心臓や肝臓などの内臓器官がもつ本来の機能のほか、関連する部位やメンタル面にまで影響を及ぼすといわれています。そして、からだを構成する「気(き)・血(けつ)・水(すい)」が五臓のすみずみまで行きわたり、からだを整えることによって、健康が保たれると考えられています。
「肺」は、呼吸によって自然界の清気を取り込み、体内の水分を全身に行きわたらせます。「心」は、五臓五腑を統括し、全身に血をめぐらせ、思考や意識など精神活動を制御します。「肝」は、全身の気や血の流れを調整。また、血を貯蔵し全身の血量を調整しています。「脾」は、消化と吸収を行い、後天の精(※飲食物を脾胃で消化吸収し得られる栄養のこと)を取り込み、気・血・水のもとを全身に送ります。「腎」は、精を蔵し元気をもたらすほか、全身の水分代謝を調節し、呼吸にも関与します。
五臓には、それぞれが属する「五季」があり、季節とも深い関わりがあります。春は「肝」、夏は「心」、長夏(ちょうか)(日本では梅雨時にあたる)は「脾」、秋は「肺」、冬は「腎」と関連づけられ、対応する季節に五臓の働きは弱くなります。
例えば、冬には「腎」の働きが悪くなりやすく、冷えや血流障害、泌尿器系のトラブルが起こりやすくなります。体質的に冷えやすい人の場合、冬には腎の働きが悪くなるため、より強い冷えのトラブルが起こりやすくなります。腎によいとされる食材である羊肉やうなぎなどを積極的にとることで、腎の働きを補い、トラブルを未然に防ぐことができると考えます。
このように漢方では、体質と季節とのバランスを考えた食材を選ぶことで食養生ができ、体調を整えることができると考えられています。
■五臓
からだを構成する「肝・心・脾・肺・腎」の五つを指す
肝
春に働きが悪くなる。肝が弱まると、月経異常やイライラ、自律神経失調症などを招く。代謝や解毒作用が弱まり、運動神経なども衰えやすくなる。筋や目のトラブルも。
心
夏に働きが悪くなる。心が弱まると、動悸や不整脈、不眠などの症状を招き、血と気のめぐり、精神が不安定になる。顔色や舌が赤くなって、からだに熱をもちやすくなる。
脾
長夏に働きが悪くなる。脾は水分代謝にも関係があり、働きが悪くなるとむくみや下痢などの症状が表れることも。胃腸病やジュクジュクした皮膚の炎症が起こりやすくなる。
肺
秋に働きが悪くなる。肺が弱まると、呼吸器系や皮膚疾患のほか、花粉症などのアレルギー症状を招く。水分代謝や免疫力の低下、皮膚のバリアー機能が衰え、皮膚の乾燥トラブルが起こりやすい。
腎
冬に働きが悪くなる。腎が弱まると足腰が弱まり、白髪、記憶力の低下などの老化現象を招き、成長や発育、ホルモン分泌が衰えやすくなる。冷えや血流障害、泌尿器系のトラブルも起こりやすい。
(文/石川美香子)
教えてくれたのは:杏仁美友先生/Miyu Kyonin/国際中医師、中医薬膳師、漢方&薬膳アドバイザー。一般社団法人薬膳コンシェルジュ協会代表理事。薬膳や薬膳茶の講師、メニューや商品開発、講演会など多方面で活躍。近著に『プレ更年期の漢方』など。
※週刊朝日ムック「未病から治す本格漢方2021」より抜粋
※AERA dot.の2021年5月10日の記事より抜粋
この内容を見ると、漢方の理論のベースの一つとなる「五行説」は、身体の不調を感じた際、その根本原因についての仮説を立てる上で、強力なツールとなることが理解できます。
漢方の理論を覚えていく上で、「自分自身の不調を自覚し、そのうえで五行説を基に、その原因の仮説を立て検証する」というサイクルを繰り返していくことで、その理論の本質を身体で覚えていくことができると思います。
今回の抜粋記事は定期的に読み返したいと思います。