以前、メディカルハーブ界の人気講師「おおそねみちる」さんのセミナーを受講した際に、日々ハーブと触れ合うことは、5感を働かせることでもあり、特に5感の中で嗅覚は大脳へ直結している感覚器官であるので、人間の本能を起動させるうえでも大事な器官ということを認識したことを覚えています。
【過去の関連記事:メディカルハーブ界の人気講師「おおそねみちる」さんのセミナーを初受講するため、茨城県へ行ってきました。】(2019年3月24日)
ただ、「具体的に嗅覚の仕組みを説明してください」と言われると説明できる人は意外と少ないのではないかと予想します。
そこで、フレーバー・フレグランス界のリーディングカンパニー『ジボダン社』のホームページに、「嗅覚の科学を学ぶ」というページがあったのですが、フレグランスを開発する側からの視点が盛り込まれた嗅覚の説明が新鮮でしたのでご紹介します。
嗅覚の科学を学ぶ
高揚感、なつかしさ、やすらぎ……人間の脳には、日常で接する様々な香りを感情に変換する回路が備わっています。
それは、鼻が直ちに信号を脳の複数の領域に伝達しているからです。その2つの領域とは何でしょうか? 五感の中で、記憶に最も直結しているのは匂いです。
ジボダン社の神経科学者チームリーダーのジェニファーがその科学を説明し、香水のデザインによって落ち着かせたり、高揚させたりできる仕組みを解説します。
映画を見たりラジオで流れる音楽を聴いたりしていると、微笑んだり、声を出して笑ったり、涙を流したりといった感情反応が起こります。
映画や音楽が発する視覚信号や聴覚信号を解釈する能力は、「伝達(transduction)」と呼ばれる脳の感覚処理によるものです。
これによって光や音が電気信号に変換され、神経伝達物質という化学物質と結びついて、昼夜を問わずあらゆる瞬間の思考や感情、行動のもとが形成されます。人間の嗅覚も、この伝達機構で処理されています。
嗅覚
感情と記憶につながっている嗅覚野
匂いを処理する脳の嗅覚野は、感情に関する部位(扁桃体)や記憶に関する部位(海馬)、複数の感覚に関する部位(前頭眼窩野)といった脳の他の部位とつながっています。
つまり、これらのつながりを通して、人間の嗅覚システムは記憶や感情への「スーパーハイウェイ」のようなものを形成しています。
匂い情報は、そういった脳のさまざまな部位によって解釈され、思考や感情、行動という形の反応を呼び起こします。
科学者は、人間の五感をうまく利用して健康管理に生かす方法についての認識を高めつつあります。
フレグランスは今や、最も良い感情体験を刺激するよう作ることができます。
湯船に浸かっているときにぴったりのフレグランス、あるいはよく眠れるためのシーツの洗濯にぴったりのフレグランス、といった具合です。
英国アシュフォードにあるジボダン社のセンサリーセンター(Sensory Centre)で社内脳科学者のチームリーダーを務めるジェニファーは、その仕組みを次のように説明します。(Jennifer should be John)
「フレグランスは、単なるパーツの寄せ集めではありません。ただの匂いではないのです。その匂いから連想されるものに基づいて人は匂いに意味を与えます。香りは概念となり、何かを象徴するものとなります。例えば、レモンは私たちにとって柑橘類というだけではありません。「清潔感」を意味したり、もっと深い意味を持つことがあります。例えば、休暇で訪れたシチリア島でレモン畑を散歩したロマンチックな時間を思い出すこともあるでしょう。同じレモンの香りが漂ってくると、そのときの記憶と感情があふれるようによみがえってくるのです。脳が匂いに幾重もの意味を与える仕組みは配置処理(configural processing)と呼ばれます。匂いに意味をマッピングする仕組みです。」
伝達
「感覚の一貫性」の重要性
香りの信号の意味は、それを体験するコンテキスト(前後の脈絡、状況)にも左右されます。
例えば、製品のパッケージや時間、場所にも左右されます。
デザイナーは、ブランドメッセージを増幅する「感覚の一貫性」を図るため、ホリスティックな製品デザインに取り組む必要があるという認識を高めつつあります。
容器とその中の香りには一貫性がなければならない、とジェニファーは言います。
「フレグランスを開発するとき、脳を混乱させないよう注意する必要があります。例えば、『元気な』色の容器に入っている香りがリラックスする香りだと、違和感を覚えることがあります。それは、製品が示している情報が香りを予想させるからです。人は反射的に、自分が求める効果(鎮静や活性など)に直結している視覚的な手がかりを探すものです。視覚的な手がかりが重要で役立つのはそのためです。」
フレグランスに、より大きな力を発揮させるために
色や表現方法、あるいはコンテキストを通して人の香り体験に影響を与えることは、マーケティングに携わる者には特に目新しいことではありませんが、知覚科学(sensory science)への理解が深まるにつれ、なぜ人は香水に対してある一定の感じ方をするのか、そのしくみが解明されつつあります。
これからのブランドにとって、フレグランスは、「自分が使っているブランドの香りはこれ」というようなものではなく、自分自身のセンサリーマネジメント(sensory management)の一部になるだろう、とジェニファーは言います。
「人は知識が増えるにつれ、香るだけでなく、何らかのプラスαを与えてくれるフレグランスへと向かう傾向があります。この点は、現在、今後も成長が見込まれるウェルネス分野がリードしています。例えば、フレグランスはライフスタイルを整えるのに使われることがあり、リラックス、興奮、ストレスの軽減、睡眠の誘発などのためのフレグランスを作ることができます。こういったことは些細なことですが、生活の質を向上させます。ジボダン社内の脳神経科学者チームは、そういった効果を組み込むため、フレグランス開発チームとフレグランスクリエーションの過程で共同作業を行っています。現在すでに、フレグランスは最適な香りを製品の中で発揮するための技術的な特徴を機能や効果、持続性の面で向上させることが可能です。それに加えて今は、どうすれば人の心の状態や健康に影響を与えたり、向上させたりできるかを模索しているところです。」
さて、フレグランスの未来はどんなものになるでしょうか。未来の試験会場は、集中力を高める香りで満たされるようになるのでしょうか。口論をアロマの香りで鎮めることができるようになるのでしょうか。悩んでいるその問題の答えは、目と「鼻」の先にあるかもしれません。
※ジボダン社のHPの「嗅覚の科学を学ぶ」のページ(https://jp.givaudan.com/fragrances/discover-science-behind-our-sense-smell)より抜粋
【嗅覚】が持つ機能における本質は、「感情に関する部位(扁桃体)や記憶に関する部位(海馬)、複数の感覚に関する部位(前頭眼窩野)といった脳の他の部位とつながり、記憶や感情への「スーパーハイウェイ」のようなものを形成している」という部分ですね。
この嗅覚の位置づけを理解した上で、香りの創出のプロセスをイメージすると個人的にワクワクします。
また、上記の抜粋ページからは、フレグランスが、今後の社会の複数の側面に与える影響のポテンシャルの高さを感じさせてくれます。
人間の嗅覚への理解を深めていくことは、香りが持つ壮大な価値が認知されていくことに繋がっていくと思いますので、私自身も「嗅覚」のことを様々な側面で学んでいきたいと思います。