精油市場の拡大と比例する乳香(フランキンセンス)の木のダメージ。幅広い視点でアロマと付き合っていく必要性を感じました。

※VRINDAAM社アーユルヴェーダ・アロマフレグランス日本初上陸!バナーをクリック

私自身、日々、ハーブ・アロマに関連する情報について発信していますが、業界の拡大に関わるニュースに触れたときは、「人々の生活の役に立っていくはず」という期待があるからこそ、嬉しい気持ちになります。

「”人”の心と身体にプラスになっていく」という視点においては、身体の表面から複数の経路を通じて”摂取”された際の、人体とハーブ・アロマとの相互作用という部分に目が向けられます。

ただ、昨日見たニュースによって、「ハーブ・アロマと関わる」とはどういうことか、を見つめ直すきっかけとなり、大きく視点を拡大させていく必要性を感じました。

まずはそのニュースを全てご紹介します。

乳香の木が減っている、イエスに贈られた伝統香料
香水や精油に重宝されてきた樹脂、採りすぎで木が傷だらけに

乳香が採れるボスウェリア種の木は、アフリカ北部、インド、オマーン、イエメンなどに分布しているが、過剰採取のためにその数を減らしつつある。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL MELFORD, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

はるか昔の星の輝く夜、3人の賢者が、厩で生まれたイエスに贈り物を捧げたと聖書にはある。その贈り物とは、黄金、没薬、そして乳香だ。

乳香は、没薬と同様に、黄金と同じくらい高い価値があるとされてはいたものの、見つけるのが難しいわけではなかった。良い香りを放つこの樹脂を分泌する木は、聖書の舞台となった土地にも、それ以外の地域にも広く分布していたからだ。

それから2000年後、アフリカ、ソマリアの生態学者アンジャネット・デカルロ氏のチームは、まだ手つかずの乳香の木が生えているという場所を目指して、ソマリランド(国家として国際的な承認を得ていないソマリア北西部の自治区)の街ユッベの近くにある山に登った。ところが、現場に到着した彼らを待っていたのは衝撃的な光景だった。

そこに生えている木は、一本残らず、上から下までびっしりと切り傷に覆われていたのだ。

重宝されてきた香料

森を思わせる甘い香りを放つ乳香は、世界で最も古くから取引されてきた商品のひとつで、5000年以上の歴史を持つ。現在では、毎年何万トンもの乳香が市場に出回り、カトリックの司祭が使用する香、香水の材料、自然薬品、さらには精油(エッセンシャルオイル)として重宝されている。(参考記事:「イスラエルの墓地から多神教の祭壇出土」

乳香は主に、ボスウェリア属に属する5種ほどの木から採れる。これらの木の産地はアフリカ北部や西部、インド、オマーン、イエメンなどだ。木の幹に切り込みを入れると、樹液がにじみ出て、じきに固まる。この樹脂が、乳香として採取される。(参考記事:「「インド洋のガラパゴス」ソコトラ島に迫る危機」

乳香は香(インセンス)、自然薬品、香水、精油(エッセンシャルオイル)として使われる。(PHOTOGRAPH BY EDWIN REMSBERG, VWPICS/UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY)

乳香の木を健康に保つには、切り込みを入れるのを年12回以下に抑える必要があると、乳香の保護を目指すプロジェクト「セーブ・フランキンセンス」を主導しているデカルロ氏は語る。しかし、ソマリランドの山では、1本の木に120カ所もの切り込みがあった。切り込みからにじみ出る樹脂はかさぶたのような役割を果たし、傷を保護して治癒を促す。

デカルロ氏は言う。もし人間の体に切り傷ができても、「一度なら絆創膏を貼っておけば問題ありません。しかし、何度も繰り返し切り傷ができたなら、感染症に非常にかかりやすくなります。免疫系は体をなんとか救おうとして傷つき、崩壊してしまうでしょう。これは乳香の木にとっても同じことです」

過去10年ほどの間に、精油市場は爆発的に成長した(2018年に70億ドル(約7700億円)超だった市場規模は、2026年には倍増が見込まれている)。アロマセラピーはかつて、治療師だけが行うものだったが、今ではメジャーな存在になったと、精油を扱う米ドテラ社のグローバル戦略ソーシング担当部長、ティム・バレンティナー氏は言う。

ボスウェリア属の木々がどれほど危険な状況にあるかについては、よくわかっていない。この木々が分布するのは戦争で荒廃した辺境地域で、個体群調査が難しいためだ。国際自然保護連合(IUCN)は、主要な乳香の木の一種であるボスウェリア・サクラ種(学名:Boswellia sacra)を、近危急種(near threatened)に指定している。ただしこの評価が行われたのは、1998年のことだ。

乳香の木は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」の対象にはなっていないものの、専門家らは、ボスウェリア種が保護の基準を満たしていると主張する。

保護施策は国によってさまざまだが、たとえ過剰採取を規制する法律があったとしても、あまり意味はないだろうと、バレンティナー氏は言う。なぜなら乳香の木が生えているのはアクセスが難しい僻地であり、取り締まりは不可能だからだ。

貧しい地域の唯一の収入源

早い時期に警告を発していたのは、オランダ、ワーヘニンゲン大学の生態学者フランス・ボンハース氏だ。2006年の研究の中で氏は、1990年代末には、エリトリアでボスウェリア・パピリフェラ種(学名:Boswellia papyrifera)の木を見つけるのが難しくなっていたと書いている。今年の夏、氏が共同執筆で発表した新たな研究は、ボスウェリア・パピリフェラが今後20年以内に50%減少すると予測している。主にエチオピア、エリトリア、スーダンに分布するこの種は、世界の乳香生産量の約3分の2を担う。

ボンハース氏のチームによると、木の再生は進んでいないという。彼らが観察した個体群の半分以上では、若木が1本も見られなかった。その原因は、ウシが苗木を食べてしまうこと、火災、そして乳香の過剰採取だ。「古い木の枯死率が非常に高くなっています」と、ボンハース氏は言う。古い木が死ぬと、弱い個体の割合が増え、種子の生産量と質の低下につながる。

同研究では、ひとつの種だけに焦点を絞っているが、同時に、すべてのボスウェリア種が生息地の喪失と過剰採取に脅かされているとも警告している。ボスウェリア種が分布するのは、紛争や貧困に悩まされている、乾燥の厳しい地域ばかりだ。乳香を売ることは、現地の人々にとって唯一の収入源となっている場合も多く、それが過剰採取につながっている。

聖書の中では、3人の賢者のうちのひとりが、生まれたばかりのイエスに乳香を贈る。現在、乳香は世界中のカトリックの儀式で香として使われている。(PHOTOGRAPH BY MARTIN HARTLEY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

最大の問題は、樹脂を買い取って大企業に売り渡す仲介業者だ。その多くが、立場の弱い採取者を搾取していると、ソマリランドの研究者で、乳香の採取にも携わるアーメド・ドゥンカール氏は語る。

ソマリランド貿易省の元事務局長で、現在は開発アドバイザーを務めるオスマン・デゲレ氏は、重要なのは、持続可能な採取を行って地域社会をサポートする、小規模な乳香業者を育成することだと述べている。

価格は高騰、質は低下

オランダに拠点を置き、世界中のカトリック教会に香を供給しているスリーキングスインセンス社のCEO、ゲルベン・ボーアスマ氏によると、乳香は近年、価格が上昇する一方で、質は下がっているという。乳香を使った製品のメーカーは、材料の不足を補うために、白檀や花、高品質の精油などを混ぜ込んでいる。

乳香不足を長期的に解決するには、採取のやり方を、従来の持続可能なものに戻すことだと、ボーアスマ氏は指摘する。「木を育てるとなると、最初の乳香が採れるまでに25年はかかるでしょう。つまり、それだけの時間をかけても構わないと覚悟して、忍耐強く取り組むことができるクレイジーな人を見つける必要があるわけです。そうしたやり方は、ますます難しくなるばかりです」

ボンハース氏は、持続可能な採取方法についてのガイドラインの策定に協力した。その内容はたとえば、数年間採取を続けたら、丸1年は回復にあてることなどだ。また、火災やウシから森を守るために、フェンスや防火帯を設けることも推奨している。一方で、困難な状況にある人々に、そうした対策を実践してもらうのが難しいことは、氏も認めている。

乳香の木の幹に切り込みを入れると、樹液がにじみ出て、これが固まって貴重な樹脂となる。専門家は、乳香の木に切り込みが入れられる頻度と数が多すぎることを懸念している。(PHOTOGRAPH BY BILL HATCHER, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

消費者の意識を変えることができれば、乳香の森に良い変化をもたらすのではと、ボンハース氏は考えている。正しい方法で調達された製品に、消費者の目を向けさせることだ。

ドテラ社や化粧品会社の英ラッシュ社を含むいくつかの企業は、顧客への情報提供に前向きで、自社の乳香が倫理的に採取されたものであることを積極的に打ち出している(ナショナル ジオグラフィックは、企業の実際の取り組みやサプライチェーンについて、独自の検証は行っていない)。

ドテラ社の広報責任者ケビン・ウィルソン氏は、精油の製造には多大な手間がかけられており、純粋な乳香を持続可能な方法で調達するには相当な費用がかかることを、消費者は理解すべきだと述べている。「もし乳香のボトルが、地元の雑貨店で9ドルか10ドルで売られていたなら、それはほぼ確実に純粋な製品ではありません」。ドテラ社の15ミリリットル入りボトルの販売価格は、およそ90ドルだ。

アフリカでの買い付けを担当するラッシュ社のガビ・ルドルフ氏は、サプライヤーを選ぶうえで重視しているのは、新しい木を育てているかどうかだと語る。ラッシュ社などの企業は、乳香が採れる森に足を運んで採取がどのように行われているかを確認し、持続可能性にコミットしているサプライヤーを選んでいると、ルドルフ氏は言う。

デカルロ氏やドゥンカール氏など一部の研究者や採取者は、自然の森だけに頼るよりも、プランテーションで商業的に乳香の木を育てるのが有効だと考えている。

ドゥンカール氏は、ソマリランドにボスウェリア・カルテリイ種(Boswellia carterii)の苗木畑を作った。自らの資金と、ドテラ社、ラッシュ社からの寄付金をもとに、温室を建造し、野生の木から切り枝を集め、それを苗木畑に植えて、手作業で水やりをする人員を雇っている。ドゥンカール氏はこのほか、野生の木が過度に切られるのを防ぐため、乳香を採取する人たちへの教育も行っている。(参考記事:「ギターに使う希少な黒檀の森、アフリカで再生へ」

消費者は、「乳香をあと数世代で途絶えさせてもいいのだろうか」と自問すべきだと、デカルロ氏は言う。「人間は乳香を長い間愛用してきました。『愛しすぎて絶滅させてしまった』という結果には、なってほしくないものです」

アフリカとアラビア半島の間に浮かぶ世界遺産の島、ソコトラ島。「竜の血を流す」とされる珍しい植物と「洞窟人アブドラ」が暮らすこの島に今、大きな変化の波が押し寄せています。(写真=MARTIN EDSTRÖM)

文=RACHEL FOBAR/訳=北村京子

※NATIONAL GEOGRAPHICの2019年12月19日の記事(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/121700739/?P=3)より抜粋

 

今まで、乳香(フランキンセンス)は、木の樹脂ということは認識していて、その樹脂に熱をかけて、フランキンセンスの香りを確認したこともあります。

ただ、フランキンセンスを取り巻く環境についてはほとんど意識することなく生活していた為、このニュースに触れたときに大きく刺激を受けました。

精油(エッセンシャルオイル)は、通常我々が口にする肉・魚・野菜と比較して高値で取引されるため、「これはビジネスになる」と考える大手業者による乱獲が発生しやすい業界と言えると思います。

本質的に、精油の入ったボトルというのは、人間にとって必要不可欠なものではないので、記事中にもあるように、人間の意識を落ち着かせ、持続可能なサイクルに戻していくということが重要なことだと思います。

【”乳香/フランキンセンス”の過去の関連記事】

自律神経に働きかける様々な香りについて、男性フィトセラピストが語る内容が参考になりました。

神戸布引ハーブ園の初訪問レポート【香りの資料館編】

「香りの文化」が根付く淡路島にて、お線香の原料など、様々な香りにまつわる展示に出会いました。

ハワイ大学の研究者たちが、2000年前の古代エジプト人がつけていた香水のレシピを解読、再現したようです。

「フランキンセンス(乳香)」に関する情報が昨年末から増えてきて、とても気になっています。

Like! Provence – プロヴァンスが大好きな、貴方へ。(バナーをクリック!)

名前 (必須)メールアドレス (必須)サイト

コメントを残す